本稿では、これから勉強を始めようと考えている学生や社会人に向けてE資格に合格するための勉強の進め方とコツを整理して紹介します。企業の人事担当やエンジニア教育担当の方がE資格を導入するかどうかの判断のヒントとなることも目的として詳細記載していますので、是非読んでみて下さい。(この記事は数理コンサルティング企業に所属するデータサイエンティストの方(G検定:2017取得,E資格:2020 #1取得)を中心として他何名かのE資格取得者への取材を元に作成しました。取材ご協力いただいた方々ありがとうございます。)
E資格とは:国が主導するAI人材の育成とE資格の位置づけ
E資格(JDLA Deep Learning for ENGINEER)は、一般社団法人 日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施している資格試験の一つで「ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有しているかを認定する」ものです。人工知能分野のブームはいまだ熱が冷めやらず続いていますが、研究開発の面でも社会実装の面でも米中が主導しているのが実際のところで、日本は十分な競争力を有していません。こうした状況を打破するために内閣府から「AI戦略2019」が策定され、戦略目標の一つ目に「人材」が掲げられました。具体的には、学校教育や社会人向けのリカレント教育において数理、データサイエンス、AIの能力を持った人材育成が計画されています。
・AI戦略2019(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/attach/pdf/ai-15.pdf)
・日本ディープラーニング協会(JDLA)の公式WEB(https://www.jdla.org/about/)
E資格はディープラーニングを含むAIの知識とリテラシーを備えたエンジニア育成のための資格ですから、上図でいうところの、AIリテラシー教育、基本的情報知識とAI実践的活用スキルの習得に対応する資格と言えます。さらに、自らの専門分野へAIを応用するためのステップとして活用されることが期待されているでしょう。本稿では、これから勉強を始めようと考えている学生や社会人に向けて、AI関連事業に関わる技術者がE資格に合格するための勉強の進め方とコツを整理します。
E資格の難易度は?合格率の高さで甘く見るのは厳禁
2020年現在まで、E資格は4回の試験が実施されてきました。累計の受験者数は2,462人で合格者数は1,660人となっています。合格率は毎回7割近くで、G検定と同様に比較的合格率は高いと言えます。受験者数も毎回増加しており、2020年の第一回の試験では1,000人を超えました。これは
- AIに関する関心が年々高まっていること
- AIを実務に応用してイノベーションを起こしたいと考える企業が増えていること
- 就職や転職の際の採用条件にE資格取得を含める企業が出てきたこと
- 良質なJDLA認定プログラムが増えたことで、受験者の選択肢が増え、同時に学習環境も改善していること
等がその要因と考えられます。
高い合格率ではありますが、実際に受験してみると想像より難しく感じるのではないかと思います。暗記で回答可能な問題はそれほど多くありませんし、大学数学の問題が出たり、実装に関する出題が多くあったり、書籍には出ていないような最新の深層学習モデルの理論的な背景に触れる問題が出題されたりすることがあります。
また、出題順序も数学なら数学、機械学習なら機械学習、といった形でまとまっているわけでなく、次の大問にどのタイプの問題が来るかは、実際に見てみないと分かりません。したがって、受験者が苦手とする分野や準備不足な単元が突然出題されたり、それが続いたりすると、心理的な影響を受けてパフォーマンスが悪くなる可能性もあります。このようにE資格は合格率の高さから受ける印象ほど簡単ではありません。
認定プログラム選びが大事
しかしながら、E資格試験の難易度は、既に持っている知識がどの程度あるか、数理的なリテラシーを持っているかによって大きく変わりますし、後述するJDLA認定プログラムとしてどれを選択するか、その認定プログラムを最大限利用できるかによっても大きく変わります。
そもそも自分のレベルと多忙の度合いに見合った認定プログラムを選択できなければ、プログラムを修了することさえできない可能性がありますから、認定プログラムの選択を慎重に行う必要があります。こちらはプログラムを選択する段階が大切です。選択の基準は後述しますので参考にして下さい。
自分に合った学習計画を立てよう:数学が苦手なら準備期間は半年目安
数学が苦手な場合:
私は、適切な学習時間さえ確保すれば、高校までの数学が苦手だったとしても大きな障害には全くならないと考えています。もしあなたが殆どAI分野の知識を持っておらず、さらに高校までの数学にも強い苦手意識を持っている場合、「適切な」JDLA認定プログラムの修了に3か月程度費やしたとして、それを含めた準備期間を半年は取っておいた方が良いでしょう。
基本的な四則演算、数学で使われる記号とその意味、簡単な連立方程式を解けること、操作としての微分、行列の基本あたりを復習する時間を十分に確保することが大切です。その後で適切なテキストと認定プログラムの指導によってpythonでの実装訓練を行いましょう。殆どの数学は高校時代の復習ですから、恐らく必要な準備期間は毎日1.5時間〜2時間くらいの勉強をしたとして1か月~1か月半程度でしょうか。個人差がありますので、あくまでご自身のペースで焦らずしっかり基礎固めを行って下さい。
後の期間は認定プログラムのレベルの理解を深めたり、具体的な計算問題を解く力を付けたりしつつ、参考書に取り組んでいきましょう。試験までには「深層学習」(Goodfellow, Bengio, Courville, 以下GBC)の試験範囲に該当する箇所を読めるレベルに到達することが目標です。(※現在の合格率から推察すると恐らくGBCをそれほど理解できなかったとしても合格できている人が多くいます。それでも一度は読んでおくべきです。)
数学が得意な人の場合:
逆に、JDLA認定プログラムの内容が簡単に感じる程のリテラシーと知識を既にもっていれば、認定プログラムの修了時点で合格する力は十分ついています。本番の試験で自分の力を発揮できるように準備しましょう。
数学に苦手意識がない人の場合:
大半の受験者はこの中間、つまりある程度AI分野の知識は持っていて、数学に対する強い苦手意識は持っていないし、プログラムを書いた経験があるものの、E資格のシラバスに書かれていることを理解して説明できるほどのリテラシーは持っていない状態にあると考えられます。
その場合、自分はどこが苦手なのかを理解して、得意な分野を伸ばすよりも苦手な単元を克服するような計画を立てましょう。例えば理論よりも実装が苦手な方であれば、「ゼロから作る~」シリーズ(後ほど紹介します。プログラミングの経験がほとんどなくても読める本です)を実際にコーディングしながら読み進めましょう。そこで躓くと、実装に関する問題全てに影響が出ると予想されるからです。
理論や数学が得意だからと言って、苦手なところに向き合わず難解な理論書やGBCの(式展開が必要となる)理論パートを読み進めても、E資格取得という意味では不要な時間を過ごしてしまいます。どの程度の対策が必要となるか、という点は後半に記載している具体的な対策を参考にして下さい。
E資格の過去問
E資格の過去問は公開されていません。ただしJDLA認定プログラムを実施している組織には、E資格試験レベルと思われる例題が公式に配布されており、認定プログラム内でその解説を行っているはずです。この例題の問題は本番試験と同等レベルのものもありますが、本番の方が難しいケースもありますので注意が必要です。認定プログラムの中には模擬試験も合わせて行っているところがあります。必須というわけではありませんが、必要であれば問い合わせて確認しましょう。また一部模擬テストを公開しているスクールなどもあります。こちらも難易度の目安として参考になると思います。
・Study-AIのG検定模擬テスト(http://study-ai.com/generalist/)
E資格で問われているものとは?
E資格が何を測っている試験かが分かると対策を立てやすくなるだけでなく、試験前の不安を軽減する効果があります。本稿の最初に、AIに関するリテラシーと実践的活用スキルの習得に対応すると書きましたが、より具体的に言えば次の2点です。
- JDLA認定プログラムを利用して、シラバスの細項目に挙げられている重要概念とその意味、役割を勉強し、機械学習と深層学習の理解に十分時間をかけたかどうか
- 最低限の数理的、統計・機械学習的リテラシーを持っているか。例えば論文で掲載される表やグラフから重要な情報を読み取れるかどうか
したがって、これらを一定のレベルで満たしていると判断されれば合格できます。基本的な部分さえ押さえていれば、理論やモデルの実装の細部を細かく理解している必要はありません。
E資格取得が証明することと4つのメリット
上述の通り国も人材育成に力を注ぎ始めており、AIに関する(正確な)知識と運用・実装能力は、これからの日本を支える必須の技術となることが予想されています。したがって、AIに直接関わる人材、関わっていきたいと考える人たちは取得しておくと望ましい資格です。
実際、シラバスにある機械学習や深層学習に関する単元を全て独学で学習し、理論的な背景を網羅し、実装の訓練も行うということは、かなりの労力を要する作業です。したがって、この資格を持っていることで、機械学習・深層学習の技術に関して理論と実装を高いレベルで体系的に学んできたと言えることは、相当の希少性を示すことになります。このような内容を学生や社会人の方が本業とは別に勉強し、比較的短期間のうちに取得可能というわけですから、E資格はよくデザインされた民間資格だと思います。また、深層学習やAIに関する資格試験は年々増えていますが、G検定/E資格は最も信頼性の高い資格の1つと言って良いでしょう。
もう少し実際的なメリットを、4点挙げておきます。
就職と転職で使えるE資格
一つ目は、就職や転職の際に役立つことが挙げられます。自社の社員にE資格取得を推奨する企業が増えてきましたし、就職の際にG検定取得を条件/推奨とする会社が現れており、今後この流れはますます加速すると考えられます。無事合格すると合格認証ロゴが発行されますので、名刺やホームページに掲載することで、E資格取得者であることをアピールできます。E資格の団体受験企業は公開されていませんが、G検定についてはNTTコミュニケーションズ株式会社や株式会社KDDIテクノロジー、株式会社丸井グループなどが団体受験企業として紹介されています、また、求人要項については適当な求人サイトで「応募資格 E資格」などで検索をして見てください。AIエンジニアやIT/IoTの技術職、データサイエンティスト求人などでE資格を見ることができるでしょう。
AIエンジニアとの円滑なコミュニケーション
二つ目は、AI関連エンジニアとのコミュニケーションが取れるようになるという点です。あなたがE資格保持者であることは、ビジネス課題に対し実際の製品あるいはソフトウェアの形を示して解決する人材として期待されることを意味しますが、一人で全てを作り上げることは多くの場合現実的ではありません。機械学習や深層学習の全般的な知識は、複数の同僚とコミュニケーションを取り、議論を重ねて問題を解決する際の、基本的な言語の役割も果たします。この意味で、E資格取得を通して得た知識は同じ職場で働くエンジニアとのコミュニケーションを助ける土台として機能してくれるでしょう。
広がる活躍の場
さらに、あなたが大規模なシステムを構築する会社に属しているなら、統計モデルを単に実装できる段階に留まるだけでは不十分で、アルゴリズムの観点から、スケールすることを求められる場合があります。E資格は残念ながらそういったコアな技術を測る資格ではありませんが、こうした技術を持つエンジニアがチームにいるはずで、彼らは機械学習や深層学習に精通しているとは限りません。大規模なシステムを開発する上で、バックエンドで働くメンバーとビッグデータ処理基盤やアーキテクチャ設計に関するやり取りがスムーズにできることはあなたの強みになるでしょう。2020年からはシラバスに開発・運用環境の項目が入っており、E資格取得者はそうした役割も担う人材として期待されていくでしょう。
意外と知られていない合格者コミュニティは情報の宝庫
三つ目は、CDLE(Community of Deep Learning Evangelists、シードル)と呼ばれる合格者が集まるコミュニティに参加できることです。Slackが利用されていますが、ここでは技術に関する様々なやり取りが行われていますし、JDLA主催のハッカソンイベントや交流会の企画の他、企業が行うイベントなどの告知もあります。E資格の合格者は様々な領域で活躍されていますが、それもAIは殆ど全ての産業領域でこれまでの業務を変革していくことが期待されていることから当然のことでしょう。
CDLEでは、これから各業界で活躍が期待されている人たちが集まっており、業界最新動向の情報取得、最近の技術のキャッチアップ、人脈を作るという意味でも大きな価値があると考えられます。このように先進的な取り組みをしている企業と交流の機会を持ち、一定の知識を保有した人たち同士で学びあうような場はこれまでありませんでした。
企業のAI対応力を測るベンチマークとして
四つ目として、仕事を獲得する際に会社側の技術を対外的に示すために利用可能であるという点が挙げられます。G検定とE資格にそれぞれ何人合格しているかが分かると、その企業がどの程度基本的なAI技術者を保有しているかが分かります。沢山の人が合格しているなら、人材面での層の厚さをアピールすることができるかもしれません。現在は、特にコンサルティング企業やシンクタンクのような既に分析を生業にしている企業が分析を「AIで」行う上での技術力の担保として、商談の場などで参照されることが多いようです。また、AI関連のイノベーションを起こすことが難しかった業界相手には、こうして業務を獲得していく戦略が有効になるケースがあります。
新型コロナウィルス感染拡大を受けたJDLAの対応
2020年に入って新型コロナウィルスによる感染が文字通り世界中に拡大する事態となりました。2020年6月現在も感染者や死者が日々増えており、国内の経済活動も大きな影響を受けています。また安全を確保するために、人が密集する場を避ける生活が続いています。E資格は会場で受験する形なので、リスクを回避するために8月29日実施予定だった2020年の第2回試験が中止となりました。通常は受験日の2年以内に認定プログラム修了が受験の条件でしたが、これが「試験日の過去2年半(2年と180日)以内」に一時的に延長されます。同時に、2020年の第2回試験を目指して認定プログラムを受講していた人(2020年8月28日(金)までに受講を修了)は、次回2021年第1回試験の受験料が半額となります。
もう一つ、JDLAによる対応としてG検定とE資格対策の学習コンテンツが無料で公開されることとなりました。期間限定のコンテンツやキャンペーン申し込みが条件のコンテンツもありますが、無条件で公開している素材も多く、これによってさらに勉強しやすくなったと言えます。また、もくもく会やセミナーなども企画・実施されています。こちらも定期的にチェックして役立ててほしいと思います。
・E資格対策の学習サポート(https://www.jdla.org/news/2020031301/)
・JDLAのセミナー(https://jdla.connpass.com/)
E資格の受験申込から結果発表までの流れ
E検定の受験形式は会場受験となります。
E資格の受験を希望される方は、まず公式サイトで試験日程を確認しましょう。次回は2021年の第1回で、2021年2月19日、20日に予定されています。
後述のJDLA認定プログラムを選択して、受講手続きを行います。対策の全てを認定プログラムに任せるのではなく、早めに参考書などを購入して勉強を始めておきましょう。認定プログラムが一通り修了すれば、受験予定のE資格の受験申請をしてJDLAから受験申込コードをもらいます。受験申込自体は、受験日の約1か月前から開始となり、申込期限があるので遅れないように注意が必要です。申し込みサイトにアクセスし、受験する会場と日時を選択して申し込みをします。
試験会場によって環境は異なりますが、会場内で受付を済ませて指示に従います。試験が終わったら合否の連絡を待ちます。1週間程度で合否の連絡があります。
E資格の概要を確認しよう:出題範囲と実施概要
公式サイトによると、試験時間は120分、多肢選択式で100問程度の知識問題が出題されます。なお、指定された試験会場の中から希望する会場で受験します
pdfファイルで公開されているE資格のシラバスを見てみましょう。2020年の出題範囲を見ると大項目に記載のとおり、「応用数学」、「機械学習」、「深層学習」、「開発・運用環境」の4つのセクションに分かれています。そして小項目と細項目に細かい単元が書かれており、これらの多くはGBCに対応する節があり、この本の該当箇所は試験までに読んでおきましょう。と言ってもGBCは簡単に読める本ではありませんので、後程紹介する本やオンラインコースなどを利用して基本を身に着けてから挑戦しましょう。また、GBCで扱われていない細項目もあるので、それらは(後述するJDLA認定プログラムも利用して)自分で学習する必要があります。細項目の一つ一つが大問として出題される可能性があることを想定して、しっかり準備しましょう。また、pythonで記述されたソースコードを含む問題が必ず出題されますので、実装は疎かにできません。
JDLA認定プログラムについて
高等教育機関や民間事業者が提供する教育プログラムで、JDLAが定めた基準を満たしたもの。2020年5月現在、認定プログラムの数は14(認定機関がNo.14まで)あります。E資格を受験するためには、必ずこのプログラムを受講し、試験日の過去2年以内に修了して、E資格の受験許可を得る必要があります(受験申込に際してJDLAから発行される申込コードが必要です)。その認定基準はプログラムによって様々ですが、実装の課題はもちろん、筆記試験を課すケース、オンラインの多肢選択試験を受けることが条件になっているケースがあります。プログラムはオンライン/オフライン、あるいは両方が選択できるものがあり、サポート体制や課題提出頻度なども様々ですから、自分の仕事や学業との兼ね合いも考え、以下のポイントを参考に情報を収集して選択しましょう。
① オンラインかオフラインか
オンラインは自分の好きな時間に受講できるメリットがありますが、オフラインと比較して質問に対するレスポンスが遅れる可能性はあります。オフラインの場合は丁寧に指導してくれる場合が多いと思います。しかし、日程が決まっているので様々な理由で修了できない人がオンラインよりも出る場合があるでしょう。
② 受講者/修了者の合格率
全てのプログラムで教えてもらえるわけではないかもしれませんが、公開されている実績は参考になるでしょう。
③ 定期的にプログラム担当者や講師自身がE資格を受験しているか
これも教えてもらえるプログラムは限られるかもしれません。シラバスは1~2年に1度見直されますし、今後出題傾向が変わる可能性があります。認定プログラムは適時アップデートされるはずですが、講師自身が受験していることでより適切な対策プログラムに更新されることが期待できます。
④ その他
他の注意点としては、修了までどの程度の日数、時間がかかるかが認定プログラムによって変わります。また、金額もまちまちです。予定を確保できるかを含めて十分検討し、疑問点があれば認定プログラムの担当窓口の方に質問して納得いく形で決めることが大切です。目安として、大体30~60時間、2~3か月くらいの時間をかけて勉強するケースが多いようです。どの認定プログラムにするか、余裕をもって検討を始めて認定プログラム担当者と連絡を取りましょう。
それでは、以下、実装・応用数学・機械学習・深層学習それぞれの領域の対策のポイントをまとめます。
試験対策のポイント(実装編)
現時点では、プログラミングに苦手意識が強い方も多いでしょう。機械学習をこれから学ぶ人には、pythonを使って実装しながら勉強することをお勧めします。特にE資格では機械学習用のライブラリを使わずnumpyをベースにしますから、スクラッチで組んでいる実装(例えば:https://bit.ly/2WsKkK6)を参考にしながら勉強しましょう。
深層学習についても同様ですが、こちらは「ゼロから作るDeep Learning」(斎藤康毅)シリーズで基本的なpythonの文法とニューラルネットワークの実装を学ぶと良いでしょう。シラバスに出ている特定の学習アルゴリズムや、最適化手法、誤差逆伝播(計算グラフへの慣れ)の理解が鍵です。
・「ゼロから作るDeep Learning」(斎藤康毅)(https://www.amazon.co.jp/dp/4873117585)
試験対策のポイント(応用数学編)
出題数が少ないかもしれませんが、
- 統計学、情報理論の重要概念の定義を知っていること
- 具体例で計算できること
など基礎的な準備を整えていれば対応可能です。
データ分析では行列を扱うため、線形代数を勉強する必要がいずれ出てきますが、E資格の応用数学では行列と統計学の基本を理解してさえいれば、あとは高校までに習った四則演算、微分、連立方程式を解く、といった操作からなる簡単なステップに分解できます。
例えば、2020年のシラバスにある特異値分解は、行列で表現された連立方程式を解くことがメインです。その他、統計学の入門書でも登場するベイズの定理が具体的に計算できる、情報量やエントロピーといった概念を知っている、といったレベルで回答可能な問題となります。頭を使うとか数学的な理解が必要ということではなく、計算手続きを知っているかどうかが問われていると考えてください。どのようにすれば回答が得られるのか、参考書を読んでも分からない場合は、諦めるのではなく認定プログラムの講師の方に一つずつ計算ステップを教えてもらうようにしましょう。
試験対策のポイント(機械学習編)
E資格のメインは深層学習ではあるのですが、機械学習のセクションもある程度のボリュームで出題される可能性が高いので、しっかり準備しましょう。細項目の学習アルゴリズムについては、自分に合った読みやすい本を選んで理論を理解しましょう。また機械学習特有のテーマがあります。過剰/過少適合、ノーフリーランチ定理、万能近似定理、検証集合の扱い、正則化、最適化のアルゴリズム、性能指標やハイパーパラメータの選択といった単元は、試験前には(認定プログラムも利用しつつ)GBCを読んで把握しておきましょう。とはいえ決して難しいものではありませんから、もしGBCが手ごわければ最初は以下のような本を手に取って、自分に合うものから勉強を始めると良いです。分かりやすい本を1冊をきちんと理解していればOKですが、シラバス細項目にあるテーマはできるだけカバーしておきましょう。
- Pythonで動かして学ぶ!あたらしい機械学習の教科書(伊藤真)
- 東京大学のデータサイエンティスト育成講座(塚本邦尊、山田典一, 大澤文孝)
- やさしく学ぶ 機械学習を理解するための数学のきほん(立石賢吾)
- Pythonではじめる機械学習(Andreas C. Muller、Sarah Guido)
- Pythonによるスクレイピング&機械学習(クジラ飛行机)
- Python 機械学習プログラミング(Sebastian Raschka、Vahid Mirjalili)
- ITエンジニアのための機械学習理論入門(中井悦司)
他に、オンラインで受けられる良質の無料コンテンツが沢山あります。不安が大きい場合は、認定プログラム受講前に勉強を始めておくと良いでしょう。例えばcourseraには有名な機械学習の講座がいくつかありますし、キカガクさんが作成している講座やN予備校さんの授業、AI Academyさんのコンテンツなど2020年6月現在、無料で学習できる環境が多くあります。
- Coursera(https://ja.coursera.org/learn/machine-learning)
- キカガク(https://www.kikagaku.ai/)
- N予備校(https://www.nnn.ed.nico/courses/307/chapters)
- AI Academy(https://aiacademy.jp/)
試験対策のポイント(深層学習編)
深層学習はE資格のメインパートなので、範囲も広く、難易度も高くなります。深層学習は進展が非常に速く、これまでまとまった教科書が少なかったのですが、2020年現在、以下に挙げるような分かりやすい書籍も少しずつ出版されてきました。
- ゼロから作るDeep Learning(斎藤康毅)
- はじめてのディープラーニング(我妻幸長)
- PythonとKerasによるディープラーニング(Francois Chollet)
- 直感 Deep Learning(Antonio Gulli、Sujit Pal)
- 最短コースでわかる ディープラーニングの数学(赤石雅典)
このうち、「ゼロから作るDeep Learning」のシリーズは実装の方でも重要になりますので、必ず最後まで読んで理解しておきましょう。これらで学習できるのは、深層学習モデルとして最も基本となるニューラルネットワークのモデルで、現在画像解析で用いられるCNNや系列データを扱うRNNといったモデルとそのバリエーションがメインです。また、深層学習特有のテーマとして最適化のアルゴリズムや正則化、長期依存性に対応するための各テクニックなどは重要なテーマであり続けると思われます。キーコンセプトの定義を押さえて、その役割、他の類似技術との違い、実装の方法を含めて理解・説明できるレベルを目指しましょう。
さらに進んだ話題:
E資格では、さらに進んだ話題が出題されます。例えば生成モデルや強化学習などの他、基本モデルを特定のドメイン領域で応用されたモデル(自然言語処理分野や画像のセグメンテーションなど)で特に近年注目されているものです。
これらの一部は書籍で勉強することが可能ですが、E資格で出題されるレベルを見極めて取捨選択しつつ、一から取り組む時間を確保することは実際には難しいです。認定プログラムで十分に対応してもらえている場合はOKですが、不安な方もいるかもしれません。ただ、これらの話題を落としたとしても、全体から見るとそれほどボリュームはありません。もっと基本的な部分で苦手があればそちらに時間をかけるべきでしょう。それを行った上でさらに余力があれば取り組みます。これらの中で最も重要と考えられるのは自然言語処理やセグメンテーションです。こういったところから優先して学習を進めるのは有効です。これらは上で記載したように、キーワードの整理、役割と実装までイメージできることを目標にします。生成モデルや強化学習はカギとなる概念を数式と対応させる形で理解できれば、今のところ十分でしょう。
受験に向けて
特に深層学習については日進月歩の発達を遂げているため、出題傾向の変化が今後も考えられます。試験本番では、どういった問題が出ても驚かないように、確実に解ける問題を解いて、とにかく最後まで到達した後であらかじめチェックしておいた問題を一つ一つ見直す戦略が有効です。最後に、E資格でチェックされる2点をおさらいしておきます。
- 認定プログラムを利用して、シラバスの細項目に挙げられている重要概念とその意味、役割を勉強し、機械学習と深層学習の理解に十分時間をかけたかどうか
- 最低限の数理的・統計・機械学習的リテラシーを持っているか。例えば論文で掲載される表やグラフから重要な情報を読み取れるかどうか
勉強を進める途中で色々な情報に惑わされて不安になるかもしれません。しかし、この二点に対して以前より自信が持てるようになったかどうかを、都度自分に問いかけてみてください。自信がついてきたと感じていれば、今の勉強方法はあなたに合っていて、確実に合格に近づいています。
皆様の合格を心よりお祈りいたします!それでは。
著者:meifelyuki
フリーランスのデータサイエンティストとして、大学や企業などをフラフラしながら様々なデータサイエンス業務に携わっています。データサイエンスを「する/教える/作る」の全てが好きです。レガシーな統計解析も、kaggleな機械学習も、強力だけど時にブラックボックスな深層学習も平等に好きです。お仕事の依頼は編集部まで!